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神戸地方裁判所 昭和56年(行ウ)10号 判決

兵庫県西宮市塩瀬町名塩字北山五三一三番一四四号

原告

小寺清夫

右訴訟代理人弁護士

北方貞男

同県伊丹市千僧一丁目四七番地三

被告

伊丹税務署長

平井武文

右指定代理人

田中治

国友純司

岸下秀一

山本昌二

熊本義城

葛田貴

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五四年四月五日付でした、原告の昭和五二年分所得税についての更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分に至る経緯

原告は、訴外東洋ゴム販売株式会社(以下、「東洋ゴム販売」という。)の代表取締役をしていた者であるが、昭和五二年分の所得税につき、法定期限内に被告に対し、別表(1)の確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和五四年四月五日付で同表更正、賦課決定欄記載のとおり更正処分(以下、「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、「本件賦課決定処分」という。)をした(以上の各処分を合わせて「本件各処分」という。)。

2  本件各処分の違法

しかしながら、左記のとおり、本件更正処分は、所得税法六四条二項の適用を誤ったものであって違法であるから、本件賦課決定処分も違法である。

(一) 本件契約に至る経緯

(1) 東洋ゴム販売は、原告の亡父訴外小寺才一郎が大正一一年ころに尼崎市において、衣料品小売卸売業を個人商店として始めたことに源を発する。当時は、地下足袋、運動靴などのゴム製履物の卸売専業店はなく、同店も衣料品業との兼業であったが、戦後、履物だけが早く統制を撤廃されたため、履物専門の卸売業に転じ、東洋ゴム工業製品を取扱い、昭和二五年に法人化し、株式組織となった。

(2) しかし、昭和四〇年ころからは、過当競争が著しくなり、価格競争のために利潤が薄くなる一方、履物の品質がよくなったため買換え需要が減少して売上げが伸びず、東洋ゴム販売の経営は急速に悪化した。

このような情勢から、メーカーである前記東洋ゴム工業は、ゴム製履物の製造を減少させ、遂には全面的に製造を廃止した。そこで、東洋ゴム販売は、興国化学工業製品(アキレス印)を取扱うよう転換していったが、同社が自ら有力な販売店を設置したために、既存販売店は圧迫を受け、東洋ゴム販売の経営はますます悪化していった。

こうして、同社は、昭和四〇年ころから赤字決算になり、常時累積赤字を抱えるようになった。昭和四五年に前記才一郎が死亡し、原告が同社の代表者となったが、その後も原告の個人資産をつぎ込みながら苦しい経営を続けてきた。

(3) 東洋ゴム販売は、訴外尼崎浪速信用金庫本店営業部(以下、「尼信」という。)を主たる取引金融機関として、多額の融資を受けており、従前は、利息の支払いをして元金の返済期限を延期してもらっていたが、近時、尼信から一度元金を現実に返済しない限り、融資の継続は困難であるといわれ、返済を要求されるようになった。しかし、東洋ゴム販売には見るべき資産がないため、同社の保証人である原告が保証債務を履行しなければならない立場にあったが、右履行をするためには唯一の個人資産であり、かつ、小寺家の本拠でもあった尼崎市御園町二番地宅地(四八〇・九五平方メートル、以下、 「本件土地」という。)を売却するほかなく、また、原告が同社のために負担している他の保証債務についても、右同様、同土地の売却資金を充当しない限り、元金返済のめどは立たなかった。そこで、原告は、同土地を売却することを決意した。

(二) 原告は、昭和五一年一〇月一五日、本件土地を訴外土井不動産株式会社(以下、「土井不動産」という。)に一億〇九一一万七五〇〇円で譲渡する売買契約(以下、「本件契約」という。)を締結し、右売得金をもって次のとおり、東洋ゴム販売のための保証債務を履行した。

(1) 同年一二月六日、訴外国民金融公庫(以下、「金融公庫」という。)に対し貸付金一一一万四五二三円

(2) 昭和五二年一月二〇日、訴外藤原喜一(以下、「藤原」という。)に対し貸付金三〇〇万円

(3) 同年八月三日、尼信に対し手形貸付金一〇五〇万円

(4) 同年十二月十五日、訴外三和銀行尼崎北支店(当時、現在は尼崎支店。以下、「三和銀行」という。)に対し手形貸付金五〇万円

(5) 同日、尼信に対し手形貸付金二〇〇万三四五二円

(三) しかし、東洋ゴム販売は、前述のとおり、長年累積赤字を抱えており、また、見るべき資産もなかったため、原告の前記一七一一万七九七五円の保証債務の履行によって原告が同社に対して取得した求償権は、客観的にみて、行使できる状態ではなかった。

そこで、原告は、昭和五二年一二月に右求償権のうち、一五〇〇万円を放棄した。

(四) 以上のとおり、原告の東洋ゴム販売に対する前記求償権中、一五〇〇万円は、前記放棄により回収不能が確定したから、右回収不能につき、所得税法六四条二項が適用されるべきである。

3  よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  請求原因第2項について

(一) 同項冒頭部分の主張は争う。

(二) 同項(一)の事実は知らない。

(三) 同項(二)のうち、原告が本件契約を行ったこと並びに金融公庫に対する一一一万四五二三円、三和銀行に対する五〇万円及び尼信に対する二〇〇万円の各保証債務を履行したことは認め、その余は否認又は争う。

(四) 同項(三)の事実は否認する。

(五) 同項(四)の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件各処分に至る経緯について

(一) 原告は、土井不動産との間で本件契約を締結し、その売買代金として、売買契約日に二〇〇〇万円、昭和五二年七月三〇日に中間金として四五〇〇万円、同年一一月三〇日に最終金として四四一一万七五〇〇円を各受領するとともに、最終金受領日に所有権移転登記を経由した。

(二) 原告は、昭和五二年分の所得税の確定申告に際し、原告が事業及び居住の用に供していた本件土地を、原告が経営する東洋ゴム販売に対する原告の保証債務を履行するために譲渡したうえ、所定期間内に買換資産を取得するとともにそれを事業の用に供したとして、所得税法六四条二項、租税特別措置法(以下、「措置法」という。)三五条、三七条に定める課税の特例を適用して別表(1)の確定申告欄記載のとおり、確定申告をした。

(三) しかし、被告は、本件譲渡は所得税法六四条二項に該当せず、かつ、原告の申立てた事業用買換資産の取得価額及び譲渡費用が過大に計上されていると認めたので、その一部を否認するとともに、正確に計算した分離長期譲渡所得を算出し、別表(1)の更正、賦課決定欄記載のとおり、本件各処分を行った。

2  本件譲渡と所得税法六四条二項

本件譲渡は、左記のとおり所得税法六四条二項に該当しない。

(一) 原告の求償権放棄について

(1) 所得税法六四条二項にいう「求償権を行使することができないこととなったとき」とは、当該求償権の相手方である主たる債務者について、破産、和議手続の開始又は事業の閉鎖がなされたことはもちろん、債務超過の状態が相当期間継続し、金融機関及び大口債権者の協力が得られないため事業再建の見通しがないこと、その他、これに準ずる事情が生じたことにより、求償権を行使してもその目的を達せられないことが確実となった場合をいい、主たる債務者の資産状況、経営状態等総合的見地からこれを判断すべきものと解するのが相当である。

従って、原告の債権が放棄によって法律上消滅したからといって、直ちに右要件を満たすとはいえないのであって、右要件を満たすといいうるためには、あくまでも原告の主たる債務者に対する求償権の行使が同社の支払能力等からみて不可能であることを前提として、債権放棄がなされた場合であることを要するものというべきである。

(2) これを本件についてみるのに、主たる債務者である東洋ゴム販売は、原告が一五〇〇万円の求償権の放棄をした昭和五二年一二月以後においても事業を継続しており、また、金融公庫及び尼信から新たに借り入れるとともにその弁済もしている。

更に、東洋ゴム販売は、昭和五四年三月一四日に解散登記をしているが、その直後の同月三〇日に同社と同じ所在地、同じ建物で、同じ事業内容の訴外小寺商事株式会社(以下、「小寺商事」という。)が設立されて営業が開始され、現在に至っている。なお、同社の代表者は原告の長男である訴外小寺通嗣(以下、「通嗣」という。)である。

右事実によれば、原告は、東洋ゴム販売に対する求償権の行使が事実上できないという客観的な事実がないにもかかわらず、同社が自己の同族法人であるところから安易に債権を放棄し、同社に利益を与えたに過ぎず、従って、原告が同社に対する債権を放棄したことをもって、同条にいう「求償権を行使することができないこととなったとき」に該当するものとはいえない。

(3) 更に、原告は、昭和五二年一二月に一五〇〇万円の求償権放棄をしているが、この時点で原告が履行した保証債務は、金融公庫に対する一一〇万円、藤原に対する三〇〇万円、尼信に対する二〇〇万円及び三和銀行に対する五〇万円の合計六六〇万円に過ぎない。

従って、この時点では、東洋ゴム販売に対する一五〇〇万円の債権放棄などあり得ず、原告は、同社が自己の同族法人であることを奇貨とし、租税の負担の軽減を図るための債権放棄をしたものであるといわざるを得ない。

(二) 原告の弁済が保証債務の履行といえないことについて

(1) 金融公庫に対する債務一一〇万円について

(イ) 東洋ゴム販売が、昭和五〇年四月一〇日、原告を連帯保証人として、金融公庫から借入れた三〇〇万円は、金利年九・四パーセントで、東洋ゴム販売が毎月一〇万円ずつ弁済していたが、原告は、昭和五一年一二月六日にその時の残金一一〇万円を、同社を通じて一括繰上げ弁済した。

(ロ) しかし、この弁済について原告が金融公庫から繰上げ弁済を求められた事実はないうえ、その後の昭和五二年五月一九日、東洋ゴム販売は、金融公庫から再び金利年八・一パーセントで二〇〇万円を新規に借入れている。

これによれば、原告は、金融公庫に対する債務が最も高い利率(九・四パーセント)の時期の借入れであったことから、たまたま本件土地の譲渡代金の一部の入金があったのを機会に、東洋ゴム販売に代って任意に弁済したものとみるのが相当である。

(ハ) 従って、本件土地の譲渡は、原告の金融公庫に対する保証債務を履行するためにされたものとは到底いい難い。

(2) 藤原に対する債務三〇〇万円について

原告は、東洋ゴム販売が、原告を保証人として、原告の岳父である藤原から、昭和五一年七月二八日に三〇〇万円を借り入れ、昭和五二年一月二一日、原告において、保証人としてこれを弁済した旨主張する。

しかし、右の借入れは、東洋ゴム販売ではなく原告が行ったものであり、原告の保証債務とはいえないうえ、右借入れについては、利息及び弁済期限の定めもなく、原告は、たまたま本件土地の譲渡代金の一部の入金があったのを機会に任意に弁済したものであるから、保証債務の履行のために同土地の譲渡があった場合とは到底いえない。

(3) 尼信に対する債務一〇五〇万円について

原告の主張によれば、東洋ゴム販売は、昭和五一年八月一九日、原告を連帯保証人として、尼信から一〇五〇万円の手形借入れをし、右借入金は、形式上、昭和五二年八月三日、昭和五三年七月一九日及び同年一二月四日にそれぞれ弁済されたことになっているが、前記各同日、尼信は、東洋ゴム販売に対し、同額の手形貸付けを行っているのであって、実質的には債務は継続されており、原告が保証人として弁済をした事実はない。

そして、原告は、本件土地の譲渡代金を最終的に受領した昭和五二年一一月三〇日から相当期間を経過した昭和五三年一二月末に至っても、いまだ右保証債務を履行した事実はない。

従って、本件土地の譲渡は、保証債務を履行するための譲渡には到底該当しない。

(4) 尼信に対する債務二〇〇万円について

東洋ゴム販売は、昭和五二年八月二日、原告を連帯保証人として尼信から二〇〇万円の手形借入れをし、同年一二月一五日、原告が東洋ゴム販売を通じて右債務を弁済している。

しかし、右借入金の発生は、本件契約締結後のものであるから、これが「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」に当たらないのは明らかである。

(5) 三和銀行に対する債務五〇万円について

東洋ゴム販売は、昭和五二年一一月四日、原告を保証人として、三和銀行から五〇万円の手形借入れをし、同年一二月一五日に原告が東洋ゴム販売を通じてこの債務を弁済しているが、右(4)同様、これは、「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」に該当しない。

(三) 本件更正処分の適法性について

本件土地上には、原告所有の木造瓦葺二階建、延面積四四九・七〇平方メートルの建物(以下、「本件旧建物」という。)があり、原告は右建物のうち二六三・二〇平方メートルを、昭和二五年一〇月ころから東洋ゴム販売に賃貸していた。

そこで、被告は、本件旧建物の敷地である本件土地についても、本件旧建物の延面積に対する賃貸面積の割合に応じ、前記売買代金のうち六三八三万三七三七円は事業用資産の譲渡による収入金とした。

(算式)〈省略〉

(1) 事業用買換資産の取得価額(別表(2)の〈2〉)について

原告は、買換資産として、昭和五二年七月二〇日、訴外李英貴ほか一名から伊丹市瑞ケ丘一丁目四二番二雑種地二四〇平方メートル及び同番三雑種地三六平方メートル(以下、この二筆を「本件買換土地」という。)を三三〇〇万円で取得し、その地上に居宅兼店舗鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建延面積一九六・五六平方メートル(家屋番号四二番二。以下、「本件新建物」という。なお、本件買換土地及び本件新建物をあわせて、以下、「本件買換資産」という。)を建築したが、その建築につき、建築費用として附帯費を合わせて二〇三一万一八三〇円を支払った。

従って、本件買換資産の取得価額は、五三三一万一八三〇円である。

(2) 取得費及び譲渡費用の合計額(別表(2)の〈5〉)について

(イ) 本件土地の取得費は、五四五万五八七五円(措置法三一条の三(昭和五四年法律第一五号による改正前のもの)により、譲渡価額の五パーセントである。)である。

(ロ) 譲渡費用は、左記〈1〉ないし〈4〉の合計一〇二四万九〇一〇円である。

〈1〉 登記料 三七万八二六〇円

〈2〉 仲介料 二五〇万円

〈3〉 家屋取壊費等 二三七万〇七五〇円

〈4〉 東洋ゴム販売に対する立退料 五〇〇万円

(ハ) 従って、譲渡費用は、(イ)及び(ロ)の合計額一五七〇万四八八五円である。

(3) 必要経費(別表(2)の〈6〉)について

(イ) まず、右(2)で算出した一五七〇万四八八五円を、その利用面積の比率により事業用部分五八・五パーセント及び居住用部分四一・五パーセントに按分し、それぞれの費用を事業用部分九一八万七三五六円、居住用部分六五一万七五二九円と算定した。

(ロ) 次に、事業用部分については、事業用買換資産の取得価額五三三一万一八三〇円に相当する部分は譲渡がなかったとみなすこととなり、従って、右事業用部分の費用九一八万七三五六円のうち譲渡部分に対応する必要経費は、次の算式により、一五〇万六七二六円となる。

(算式) 〈省略〉

(ハ) 従って、必要経費の合計額(別表(2)の〈6〉)は、居住用部分六五一万七五二九円と事業用部分一五〇万六七二六円との合計額八〇二万四二五五円である。

(4) 居住用財産の譲渡所得の特別控除(別表(2)の〈7〉)は、措置法三五条により、三〇〇〇万円である。

(5) 従って、本件土地の譲渡による分離長期譲渡所得金額一七七八万一四一五円を認めた本件更正処分は、適法である。

3  本件譲渡と措置法三七条

仮に、右2の主張が認められず、原告につき、所得税法六四条二項の適用が認められるとしても、措置法三七条の適用はない。

(一) 本件買換資産の賃貸について

(1) 本件新建物は、昭和五二年一二月一日ころ完成し、原告は、そのころ、同建物を東洋ゴム販売に対して賃貸した。なお、原告は、本件旧建物については、その一部を東洋ゴム販売に賃貸していたが、本件新建物については、その全部を同社に賃貸した。

(2) そして、原告は、昭和五二年分の所得税の確定申告書の添付書類である譲渡所得計算明細書に本件買換資産を同年一二月から事業の用に供する旨記載したうえ、措置法三七条に定める課税の特例を適用して同年分の確定申告をした。

(二) 措置法三七条について

(1) ところで、措置法三七条の要件は、「個人が---事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。---)の用に供しているものの譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む----)をした場合において、当該譲渡の日の属する年の一二月三一日までに、当該各号の下欄に掲げる資産の取得をし、かつ、当該取得の日から一年以内に、当該取得をした資産を当該各号の下欄に規定する地域内にある当該個人の事業の用に供したとき」である。

(2) また、国税庁長官通達昭和四六年八月二六日付直資四-五外(三七-三)(以下、「通達三七-三」という。)は、措置法三七条における事業に準ずるものの範囲を規定しているところ、そこでは、事業に準ずるものといいうるためには、当該行為が、「相当の対価を得て継続的に行うもの」でなければならないとするとともに、相当の対価を得ているかどうかについては、「その貸付け等の用に供している資産の減価償却費の額、固定資産税その他の必要経費を回収した後において、なお相当の利益が生ずるような対価を得ているかどうかにより判定する。」旨規定している。

(3) ところで、措置法三七条の課税の特例制度は、元来、設備の更新による企業の合理化、工場移転による産業立地条件の改善等に資することを目的として設けられているのである。従って、「相当の対価」を得ているかどうかを判定するに当たっても、このように、投資採算性の視点を重視すべきである。

(三) 本件買換資産が事業の用に供されていないことについて

(1) 原告が買換用資産として取得した本件新建物の取得費二〇三一万一八三〇円の年減価償却費は七六万一六九三円(定額法による。算式は次のとおりである。 20,311,830(円)×0.9÷24(年)761,693(円))

であるし、本件買換資産の昭和五三年度固定資産税等は一五万六〇一一円(土地四万二五〇八円、建物一一万三五〇三円)で、本件買換資産については、最低の必要経費だけでも年間合計九一万七七〇四円を要することとなる。

それにもかかわらず、原告の昭和五二年分確定申告書では、不動産収入金額はわずか三〇万円にすぎないとされており、昭和五三年分に至っては、不動産収入がないとして同年の確定申告書の提出すらない。

(2) 他方、東洋ゴム販売の昭和五二年分確定申告書によれば、同社が、本件買換資産の賃料として、同年一二月から昭和五三年三月までの四か月分一〇万円(同確定申告書では、昭和五二年四月から昭和五三年三月まで、家賃として三〇万円支払ったとしているところから算出した。)を支払ったことは認められるが、保証金、敷金等の支払は一切なく、昭和五三年四月一日から昭和五四年二月二八日までの事業年度の確定申告書によれば、右期間中は本件買換資産に対する賃料の支払さえない。

(3) このように、原告の本件新建物の賃貸は、その規模、態様、相手方からみても「事業」に該当しないのはもちろん、右賃料が本件買換資産を維持するのに必要な最低限の経費さえ満たさない低額のものであるから、通達三七-三にいう「相当の対価を得」たとは解することができず、また、「事業に準ずるもの」ともいえない。

(4) 従って、原告が取得した本件買換資産は、措置法三七条にいう事業用資産には該当しない。

(5) 仮に、当初の本件買換資産の賃料の支払から「事業に準ずるもの」と解し得るとしても、前述のとおり、賃料の支払がない昭和五三年四月以降は、原告において本件買換資産を事業の用に供しなくなったことは明らかであるから、措置法三七条一項の定める、取得の日から一年以内に買換資産を同項に規定する事業の用に供しなくなった場合に該当する。

従って、これによっても、原告の本件買換資産の取得は、同条項に該当しない。

(6) 以上のとおりであるから、原告に対しては、措置法三七条の適用も認められない。

(四) 本件更正処分の適法性について

(1) そして、所得税法六四条二項の適用が認められ、措置法三七条の適用がない場合の分離長期譲渡所得金額は、次のとおりとなる。

(イ) 譲渡価額(別表(3)の〈1〉)は、一億〇九一一万七五〇〇円である。

(ロ) 譲渡収入がなかったとみなす金額(同表の〈2〉)は、一五〇〇万円である。

(ハ) 取得費及び譲渡費用の合計額(同表の〈3〉)は、前記第2項(三)の(2)により、一五七〇万四八八五円である。

(ニ) 居住用財産の譲渡所得の特別控除(同表の〈4〉)は、措置法三五条により、三〇〇〇万円である。

(ホ) 従って、本件土地の譲渡による分離長期譲渡所得金額は、四八四一万二六一五円となる。

(2) このように、措置法三六条に該当しない場合の分離長期譲渡所得は、本件更正処分のそれを上回っているから、同処分は適法である。

4  以上のとおり、本件処分には何らの違法はないから、原告の本訴請求は理由がない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張第1項の事実は認める。

2  被告の主張第2項について

(一) 同項冒頭部分の主張は争う。

(二) 同項(一)について

(1) 同(1)の主張は争う。

(2) 同(2)のうち、東洋ゴム販売が解散して小寺商事が設立されたことは認め、その余は否認又は争う。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(三) 同項(二)について

(1) 同(1)の(イ)の事実は認める。同(ロ)の事実のうち、東洋ゴム販売が昭和五二年五月一九日に金融公庫から二〇〇万円の借入れをしたことは認めるが、その余は否認又は争う。同(ハ)の主張は争う。

(2) 同(2)の事実は否認する。

(3) 同(3)は否認又は争う。

(4) 同(4)の前段の事実は認め、後段の主張は争う。

(5) 同(5)のうち、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合には該当しないとの主張は争い、その余の事実は認める。

(四) 同項(三)について

(1) 同冒頭部分の事実は認める。

(2) 同(1)ないし(4)の各事実は認める。

(3) 同(5)の主張は争う。

3  被告の主張第3項について

(一) 同項冒頭部分の主張は争う。

(二) 同項(一)の事実は認める。

(三) 同項(二)について

(1) 同(1)及び(2)の各事実は認める。

(2) 同(3)の主張は争う。

(四) 同項(三)について

(1) 同(1)は争う。

(2) 同(2)の事実は認める。

(3) 同(3)ないし(6)の各主張は争う。

(五) 同項(四)の主張は争う。

4  被告の主張第4項の主張は争う。

五  原告の反論

1  原告の求償権放棄と所得税法六四条二項について

(一) 主たる債務者に資力があれば、保証人において保証債務を履行しなければならない必要性はない。従って、保証人が債務を履行した場合には、特段の事情が認められない限り、主たる債務者において、右保証債務の履行に基づく保証人の求償に対する履行ができないものというべきであるところ、本件では右特段の事情の存在を認めることはできない。

(二) ところで、原告が一五〇〇万円の求償権を放棄した時点(昭和五二年一二月)における東洋ゴム販売の経営状況は、次のとおりであった。

(1) 東洋ゴム販売は、原告が同社に対する一五〇〇万円の求償権を放棄しても、なお、一五〇〇万円余の債務超過となっており、もし、原告が右求償権を放棄しなければ、債務超過は三〇〇〇万円余りとなっていたはずである。

(2) その後の事業年度においても、同社の債務超過は一向に改善されず、同社は一年後に、営業不振のため、債務超過の状態で解散に至っている。

なお、本件求償権放棄後、同社が事業を継続することができたのは、右求償権放棄の結果であるから、このことをもって、求償権の行使が可能であったと解することはできない。

(3) ところで、原告が同社に対してあえて求償権を行使しようとすれば、同社の資産内容からみて、全財産の換価精算を行わなければならない。

しかし、その場合には、現金、預金以外の財産は簿価よりもはるかに低額でしか換価できないことは経験則上明らかであり、しかも、預金は各銀行の貸付金と相殺されて配当財源たりえず、在庫品は支払手形及び買掛金の各債権者が納入したものであるから、先取特権を行使されることは間違いなく、これも配当財源たりえない。

(4) そして、仮に、右(1)ないし(3)の各事実が認められないとしても、本件のように、会社代表者がその個人資産によって会社債務についての保証債務を履行した場合に、右代表者が他の会社債権者らを押しのけて、会社に対して求償権を行使することは、社会的にも、条理的にも、到底許容されるものではない。

(5) なお、小寺商事は、原告の長男である通嗣が会社勤めをやめて新設した会社であり、原告は、株主ではないことはもちろん役員でもなく、また、その資本規模及び取扱高は、東洋ゴム販売に比べはるかに小規模であるから、小寺商事は、原告及び東洋ゴム販売とは人的にも資本的にも全く別個の会社である。

(三) 従って、以上の事実関係に照らせば、原告において本件求償権を行使することができなかったことは、明らかである。

2  本件買換資産と措置法三七条について

(一) 本件買換資産の使用に対する東洋ゴム販売の賃料月額二万五〇〇〇円は、原告においても安価に過ぎることを承知のうえで、同社が経営不振のため支払能力がないことを考慮し、本件契約以前の賃料額を引継いだ形で、同社の経営状態が回復するまでの間の賃料額として、暫定的に定められたものである。

しかし、同社の経営状態はその後も悪化し、結局、賃料増額の機会が来ないまま、同社は解散してしまった。

(二) そして、同社は、昭和五四には月額二万五〇〇〇円の賃料も未払に終わっている。

ところで、この未払賃料につき、同社は未払金、原告は未収金の各経理処理を行うべきであるのに、実際にはこれを行っていない。しかし、これは、原告の経理処理に対する無知と同社が自己の同族会社であるところからのルーズさによって、それぞれ適切な経理処理及び税務申告が怠られていた結果によるものである。

(三) 更に、将来利益を上げるために当面やむを得ず赤字を見込むことは、事業には当然あり得ることである。

従って、本件において当面暫定的に定められた月額二万五〇〇〇円の賃料額が原価を割るからといって、直ちにその事業性を否定することは不当である。

3  以上のとおりであるから、被告の主張は、いずれも理由がない。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論第1項について

(一) 同項(一)の主張は争う。

(二) 同項(二)の(1)の事実は否認する。同(2)のうち、本件求償権の行使が不可能であるとの主張は争い、その余の事実は否認する。同(3)及び(4)の各主張は争う。同(5)の事実は否認する。

(三) 同項(三)の主張は争う。

2  原告の反論第2項(一)の事実は否認する。同(二)のうち、東洋ゴム販売の未払賃料につき、同社が未払金、原告が未収金の各経理処理を行っていないことは認め、その余の事実は否認する。同(三)の主張は争う。

3  原告の反論第3項の主張は争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証、第三、第四号証の各一、二、第五号証の一ないし五、第六ないし第二三号証、第二四、第二五号証の各一ないし五、第二六号証、第二七号証

2  乙号各証の成立(乙第一号証及び第一三ないし第二〇号証については原本の存在とも)を認める。)。

3  原告本人(第一、二回)。

二  被告

1  乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第二三号証

2  甲第一五号証、第一七ないし第一九号証、第二一ないし第二三号証、第二四、二五号証の各一ないし五及び第二六号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立(第四号証の二及び第一四号証については原本の存在とも)を認める。

理由

一  請求原因第1項及び被告の主張第1項の各事実(本件各処分に至る経緯)は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各処分の適否について検討する。

1  ところで、所得税法六四条二項にいう「求償権を行使することができないこととなったとき」とは、当該求償権の相手方である主たる債務者について、破産宣告、和議開始決定又は事業の閉鎖がなされたか、このような事態にまでは至らないとしても、債務超過の状態が相当期間継続し、金融機関及び大口債権者の協力が得られないため事業再建の見込がないこと、その他これに準ずるような事情により、求償権を行使しても回収の見込のないことが確実になった場合をいうものと解するのが相当である。そして、このように解することは、租税法律主義と租税回避を防止し、租税負担の公平をはかるという税法解釈の目的にも合致する。

従って、保証人の主たる債務者に対する求償権が放棄により消滅したからといって、直ちに右要件事実を充足するものではなく、右要件を充足するためには、主たる債務者について前記のような支払不能の状態が存在することを前提として、求償権の放棄がなされたことを要するものというべきである。

2  そこで、これを本件についてみるのに、成立に争いのない甲第八ないし第一四号証(第一四号証については、原本の存在とも)、乙第三号証、第四号証の一、二、第六号証の一、二、第二一号証及び原告本人尋問の結果(第一、二回)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。

(一)  東洋ゴム販売は、原告の父である訴外小寺才一郎が大正一一年ころに尼崎市内において、衣料品の小売卸売業、ゴム製履物の卸売業を営む個人商店として創業したものであるが、第二次大戦後は、ゴム製履物の卸売業を専業とするようになり、営業所も本件土地に移転し、昭和二五年一〇月一八日には、いわゆる法人成りをして株式会社の形態を取るに至った。しかし、このことによって特に同社の営業形態には変化はなく、その大部分の株式(資本金七〇〇万円)を親族で保有している同族会社であった。

(二)  東洋ゴム販売の当初の経営状態は良好であったが、その後、卸売業者間の過当競争による収益の低下、製品製造会社自身による自社製品販売網の確立、製品の品質向上による買換え需要の低下などにより、経営状態は次第に悪化し、昭和四〇年以降それが顕著となり、昭和四五年一二月に前記才一郎が死亡して原告が同社の代表者に就任したのち(なお、原告は、昭和二二年ころから、同社の営業に関与していた。)も、経営状態は好転しなかった。

そのため、同社は、主たる取引金融機関である尼信を初めとするいくつかの金融機関から融資を受けていたが、前述した同社の形態から、これらの金融機関は、同社に対する融資を行う際には、原告に対し、右債務について保証をすることを要求したので、原告は、同社の借入金につき、保証をしてきた。

(三)  原告は、昭和五一年春ころ、本件土地の売却を決意し、そのころ、不動産仲介業者に売却の仲介を依頼して、同年一〇月一五日、土井不動産との間で本件契約を締結し、同日手付金として二〇〇〇万円、昭和五二年七月三〇日中間金として四五〇〇万円、同年一一月三〇日残金四四一一万七五〇〇円を受領した(契約締結及び代金の受領の点は、当事者間に争いがない。)。そして、原告は、東洋ゴム販売を主たる債務者とし、原告を保証人とする金融機関等に対する保証債務のうち一七一〇万円(金融公庫に対する一一〇万円、藤原に対する三〇〇万円、尼信に対する一二五〇万円、三和銀行に対する五〇万円、但し、いずれも元金。)を履行したことにより、東洋ゴム販売に対して同額の求償権を取得したとして、昭和五二年一二月一〇日、同社に対し、このうち一五〇〇万円を放棄する旨の意思表示をしたうえで、この求償権の放棄は、同社の無資力によりやむを得ずしたものであるとして、昭和五二年分の所得税の申告に際し、右放棄について所得税法六四条二項を適用して申告し(この申告の点は当事者間に争いがない。)、他方、同社は、昭和五二年四月一日から同五三年三月三一日までの事業年度の確定申告に際し、右一五〇〇万円を雑益(債務免除益)として計上した。

(四)  しかし、原告は、他方では、買換資産として税制上の特典があるとはいえ、東洋ゴム販売に貸与するために、昭和五二年七月二〇日、本件買換土地を三三〇〇万円で取得し、二〇三一万一三八〇円を投じて同地上に本件新建物を新築(同年一二月一日ころ完成)し(この本件買換資産取得の点は、当事者間に争いがない。)、更に、そのころ、かねてから取得していた肩書地所在の宅地上に約三〇〇〇万円を投じて居宅を新築している。

(五)  東洋ゴム販売は、本件新建物を原告から賃料月額二万五〇〇〇円で借り受けて営業を続けていたが、その後も経営状況が好転しないところから、原告は、昭和五四年二月二八日に同社を解散し、同年三月一四日にその旨の登記を了している(なお、同社は、現在清算手続中であるが、最終的には、約二〇〇〇万円ほどの債務超過となる予定である。)。

しかし、その後、同月三〇日には、同社と同じ場所において、原告の長男の通嗣を代表者として、実質的には東洋ゴム販売とほぼ同一の事業内容を持つ資本金二〇〇万円の小寺商事が設立され、同社は、東洋ゴム販売の顧客も引き継いで営業を行い、今日に至っている。なお、原告は、小寺商事の役員にも株主にもなっていないが、同社は、右通嗣ら原告の親族がほとんどの株式を保有する同族会社であり、原告は、同社の業務については、相談を受ける程度で余り関係していないと供述しているにもかかわらず、昭和五四年中に同社から、同年八月一日から同五五年七月三一日までの事業年度における右通嗣の役員報酬一五〇万円のほぼ二倍に当たる二九五万五〇〇〇円(これを同社の設立日である昭和五四年三月三〇日から同年一二月末までに受け取ったとすると、給与月額は、原告が東洋ゴム販売の代表取締役であった当時に同社から受け取っていた役員報酬月額三〇万円よりも多いことになる。)の給与の支払いを受け、更に本件新建物の賃料として、昭和五四年中に四二〇万円の賃料の支払を受けており、同社は、このように原告に対して多額の給与、賃料を支払いながら、設立直後である前記事業年度から黒字決算となっている。

以上のような事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

次に、原告の個々の保証債務履行の状況について検討することとする。

(一)  金融公庫に対する債務について

原告が昭和五一年一二月六日に金融公庫に対し、一一一万四五二三円(元利合計)を弁済したことは、当事者間に争いがない。

しかし、成立に争いのない甲第三号証の一、二及び乙第一〇号証並びに原告本人尋問の結果(第一回、但し、後記認定に反する部分を除く。)を総合すれば、次の各事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 右債務は、東洋ゴム販売が昭和五〇年四月一〇日、原告及びその弟の訴外小寺利雄をそれぞれ連帯保証人として、年利九・四パーセントで同年五月二〇日から昭和五二年一〇月二〇日までの間、毎月二〇日限り一〇万円(元金について)ずつを返済するとの約定の下に金融公庫から借り入れた三〇〇万円の残金である。

(2) 東洋ゴム販売は、これまで支払が若干遅れることがあったものの、前記返済時まで一応、毎月の返済は行ってきており、また、金融公庫においても、毎月の支払が遅れたことを理由に期限の利益を喪失させ、東洋ゴム販売又は原告に対し、残額の支払いを求めるようなことはしていない。

(3) 原告が保証残債務を一括して履行することを決意したのは、後日、東洋ゴム販売において右債務の弁済ができなくなった場合、金融公庫から原告に対して保証債務の履行の請求があることを慮って、本件契約による売買代金を取得したことを契機に事前に一括弁済しておこうと判断したことによるものである。

(4) 東洋ゴム販売は、右弁済後の昭和五二年五月、原告及びその弟の訴外小寺庸恵を保証人として、再度金融公庫から二〇〇万円を借り入れている。

(二)  藤原に対する債務について

原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証の二及び原告本人尋問の結果(第一回)を総合すれば、原告が昭和五二年一月二〇日に岳父である藤原に三〇〇万円を弁済したことが認められる。

ところで、原告は、右債務の主たる債務者は東洋ゴム販売であり、原告は同債務につき保証人である旨主張し、原告の供述中にはこれに沿う部分があるほか、成立に争いのない甲第四号証の一の約束手形(原告が、右借入れに際し、東洋ゴム販売において藤原に差し入れたと述べている額面三〇〇万円、支払期日昭和五一年一〇月二〇日の約束手形)の表面には、振出人としての同社の記名押印の横に原告の記名押印があり、また、前掲甲第九号証(東洋ゴム販売の昭和五〇年四月一日から同五一年三月三一日までの事業年度分の確定申告書及び附属明細書)中には、藤原に対し六八二万三〇〇〇円の借入金債務を負担している旨の記載がある。

しかし、成立に争いのない乙第一一号証によれば、藤原は、本件訴訟提起後の昭和五六年四月二七日、大蔵事務官の質問に対し、前記三〇〇万円は、昭和五一年七月二八日に原告本人に貸したものであって、東洋ゴム販売に貸したものではない旨供述していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

また、前掲甲第四号証の一、二、成立に争いのない甲第二号証及び乙第一二号証並びに原告本人尋問の結果(第一回、但し、後記信用しない部分を除く。)を総合すれば、前記約束手形(甲第四号証の一)は、国税不服審判所に対する審査請求の段階では提出されておらず、かつ、同手形の手形用紙は、同手形の振出しより以前には、金額四万六八八九円、支払期日昭和五〇年五月三一日の約束手形と同年六月から昭和五一年四月まで毎月末日を支払期日とする各金額四万六二〇〇円の約束手形の合計一二通が振り出されているのみであって、甲第四号証の一の約束手形の直前の手形番号であり、右一二通の約束手形の最終支払期日である昭和五一年四月三〇日支払期日の約束手形が呈示されてからは、少くとも、昭和五七年六月一日までは右手形用紙を使用した約束手形が交換呈示されたことはなく、更に、甲第四号証の一の約束手形の原告名下に押捺されている印影は、成立に争いのない甲第五号証の一ないし五及び第六、第七号証の約束手形(この中には、藤原の大蔵事務官に対する前記供述から考えると、甲第四号証の一の約束手形に近接した時点で振り出されたものと考えられる昭和五一年八月一九日振出しの約束手形が存在し、また、これらの約束手形のうち最も新しい振出日は昭和五二年一一月四日である。)に押捺された印影と異なっている(原告は、甲第五号証の一ないし五の約束手形の印影は前の実印によるものであり、甲第四号証の一の約束手形の印影は新しい実印によるものであると供述している。)ことが認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実を考慮すれば、甲第四号証の一の約束手形の存在によって直ちに原告主張の事実を認定することはできず、前記原告の供述もたやすく信用することができない。また、甲第九号証中の前記記載も借受人側である原告及び東洋ゴム販売の一方的なものであるから、原告主張の事実を認定する的確な証拠ということはできない。

結局、以上の事実を総合すれば、原告は、藤原から個人として三〇〇万円を借り受け、これを更に東洋ゴム販売に貸与したものと認めるのが相当であり、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  尼信に対する一〇五〇万円の債務について

原告は、東洋ゴム販売の尼信に対する一〇五〇万円の債務を保証人である原告が昭和五二年八月三日に返済した旨主張し、原告の供述中には右主張に沿う供述があるほか、前掲甲第五号証の一ないし五並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第一四、第一五号証を総合すれば、東洋ゴム販売が尼信から手形貸付を受けた際に、同社が振り出し、原告が手形保証をして尼信に差し入れ、昭和五一年一一月一日以降四回にわたって書き替えられていた一〇五〇万円の約束手形が昭和五二年八月三日に決済されていることが認められる。

しかし、前掲乙第一四、第一五号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一三号証を総合すれば尼信における東洋ゴム販売名義の当座預金口座の昭和五二年八月二日現在の残高は三二二万四一六八円であったところ、同月三日には、まず三一〇万円の現金支払いがあったのち、同日、東洋ゴム販売が一〇五〇万円(元本)の手形貸付を受け、利息及び印紙代を差し引いた一〇三八万八三二六円が右口座に振替入金され、右入金があったのち、前記一〇五〇万円の約束手形の決済のために一〇五〇万六二五六円(経過利息六二五六円を含む)が出金されていることが認められ、また、成立に争いのない甲第二〇号証及び原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第二一号証並びに同尋問結果を総合すれば、原告は、昭和五二年七月二〇日、本件土地代金の中間金が入るまでのつなぎとして尼信から借入れをし、同日、この借入金三一九〇万五五七六円が尼信の原告名義の普通預金口座に入金され、即日、本件買換資産の取得代金等として三二〇〇万円の払出又は振替支払がなされ、その後、前記認定の本件土地代金の中間金受領の日である同月三〇日に八〇〇万円が右口座に預金されているか、同年八月二日、更に三九一万四一五〇円の振替支払があって、右口座の同日現在の最終残高は四七三万八七四七円であったことが認められる。そして、更に、前掲甲第一二号証によれば、東洋ゴム販売の昭和五三年四月一日から解散時である昭和五四年二月二八日までの間の確定申告附属明細書において、東洋ゴム販売は、なお尼信に対し、手形貸付による債務一六五九万七四〇〇円、証書貸付による債務六八〇万円を計上していることが認められ、他方、東洋ゴム販売が昭和五二年八月三日に手形貸付を受けるために尼信に差し入れた一〇五〇万円の約束手形を原告がその資金で決済したことを認めるに足りる証拠は存在しない。

従って、これらの事実を考慮すれば、前記認定のように昭和五二年八月三日に前記一〇五〇万円の約束手形の決済がされているという事実から、直ちに原告の主張するような保証債務の履行があったものとは認め難く、また、右主張に沿う原告の供述もたやすく信用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠は存しない。

(四)  尼信に対する二〇〇万円の債務について

原告が昭和五二年一二月一五日に保証人として、東洋ゴム販売の尼信に対する二〇〇万円の債務を弁済したことは、当事者間に争いがない。

しかし、原告本人尋問の結果(第一回)及びこれによって真正に成立したものと認められる甲第二二号証によれば、右債務は、東洋ゴム販売が同年八月三日に尼信から融資を受けたことによって発生したものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、右債務は、本件契約の成立後に発生したことになる。

(五)  三和銀行に対する債務について

原告が同年一二月一五日に保証人として、東洋ゴム販売の三和銀行に対する五〇万円の債務を弁済したことは、当事者間に争いがない。

しかし、前掲甲第六号証によれば、右債務は、東洋ゴム販売が同年一一月四日に三和銀行から手形貸付を受けたことによって発生したものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、右債務も、本件土地の譲渡後に発生したことになる。

4  以上認定の事実関係によれば、原告の主張する保証債務履行の事実のうち、尼信に対する一〇五〇万円の債務については保証債務履行の事実が、藤原に対する債務については保証の事実が、それぞれ存在せず、金融公庫に対する債務、三和銀行に対する債務及び尼信に対する二〇〇万円の債務については、本件土地の譲渡が、これらの保証債務を履行するために行われたものとは認め難いうえ、原告が求償権を放棄した当時、東洋ゴム販売は、その経営状態が不良で債務超過の状態にあり、原告が求償権を行使しても、直ちにこれに応ずることができない状況にあったものということができるが、いまだ求償権を行使しても回収の見込のないことが確実な状況にまで立ち至っていたものとは認め得ない。

5  従って、本件土地の譲渡につき、所得税法六四条二項を適用することはできない。

6  被告の主張第2項(三)冒頭部分の事実及び同(1)ないし(4)の各事実(事業用資産の譲渡による収入、買換資産の取得価格、必要経費及び居住用財産の譲渡所得の特別控除額)は、当事者間に争いがない。

7  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件更正処分は適法であり、同処分所定の所得申告をしなかったことについて国税通則法六五条二項所定の「正当な理由」の主張立証はないから、本件賦課決定処分も適法である。

三  結論

よって、本件各処分は適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上博巳 裁判官 笠井昇 裁判官 田中敦)

別表(1)

〈省略〉

別表(2)

〈省略〉

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